パッシブハウスを語る

Replan 編集長 三木 奎吾
北洲総合研究所 所長 石原 英喜

三木
PPH(プレミアムパッシブハウス)は大屋根が少し出っ張っていて、その軒下で生まれる、ダイニングから外に向けて生活シーンが滲み出てくるような空間が特徴ですよね。シンプルだけど、よく考えられているつくりだと思っていました。
石原
ありがとうございます。やはり建物をつくるうえで、全体に大きな屋根をかけてシンプルなつくりにするのが一番だと思っているんです。室内はリビングとダイニングをずらして配置する雁行型を取り入れることで、空間に変化が生み出しました。
三木
やはり大きな屋根をかけるというようなスタイルは、日本の民家を意識したものなのでしょうか?
石原
そうですね。それに加えてヨーロッパからの影響もあります。ヨーロッパの家屋の良さを取り入れながら、昔ながらの日本の古民家を融合させたデザインです。
三木
やはり長い時間をかけて形づくられたデザインというのはいいですよね。そして、この住宅の名前はパッシブハウスにプレミアムという言葉を加えた「プレミアムパッシブハウス」。すごい名前を付けましたね!
石原

アメリカやドイツではそれぞれにPPHの基準があるのですが、我々はそれだけを意識してPPHをつくっているわけではないんです。とはいえ、それらを超えるというか超越するようなものを表したい。それでパッシブハウスのネームバリューを生かしながら、しかしそれよりも優れているということを名前に表しています。
三木
たしかに海外と日本の住宅では、湿度や潜熱の問題をどう扱うかなんてことでもだいぶ違いますからね。そういう意味ではPPHは地域に根ざす、地域に似合うようなものを目指しているのかなとも思うのですが、仙台という場所に建つということで、いちばん意識されたポイントはどんなところですか?
石原
まずは〝風を取り入れる〟ということですね。卓越風がどの方向から吹いてくるのかということを考え、南東に置いたアウターリビングから室内に風を取り込もうと計画しています。そうすることで夏には冷房負荷を抑えられるのではないかと思っています。また、この建物の内と外をつなぐ大きな窓は、冬は低い角度から射し込む陽射しをより多く室内に取り込み、夏はその逆に三角屋根による深い軒の出が高い角度からの強い陽射しを遮る役目を担っています。
三木
なるほど。心地よい空間づくりと環境の関係というのは非常に大きなポイントになりますからね。ちなみに北洲さんは東北のあちこちで住まいづくりに関わっていると思うのですが、建物の配置については前面道路に対して正対させたり、多少斜めにしたりといろんなことができますよね?
石原

基本的には敷地単体で見ると、住宅そのものを真南に向けたほうがいいという考えもあると思うんです。今PPHが建っている住宅地には、弊社が手がけた住宅がすでに何棟か建っているのですが、街並みを形成するという意味でもその地域に合った住宅をつくりたいと考えています。整った街並みのなかで突拍子もない家が一軒建っていても、そこに住む方が周りの方にいろんな心配をしないといけなくなりますし…。
三木
でも作り手の想いはいろいろありますよね。その場合は、施主さんにどう説明するのですか?
石原
我々は家単体を作るという考えではなくて、そこの街並みをつくることまで考えているんです。なので、この街並みにに対してあなたのお宅はこういう印象になりますよ、ということをご説明していきます。
三木
なるほど。でもやはりユーザー側からすると、どんな家でも限りのある人生の中でずっと孫の代まで受け継がれる優良な資産になるのではないかなと思います。
石原
車で例えると、カスタムカーの場合、中古車としてオーナーが変わったときにぴったりと似合うような人がなかなか見つからないかもしれませんよね? 住宅もそれと似たようなところがあって、その時はベストかもしれないけど、この家で過ごす方の将来のライフスタイルを考慮したときに、「ここはこうした方がよかったな」という後悔がどこかしら出てくると思うんです。だから、長い目で見た時にベストな使い方を提案していきたい、と思いますね。
三木
建物を見た人が、「ああ、あの家は素敵な家だな」って思ってもらえることも建て主の資産を守るっていう大事なことにもつながりますからね。そのあたり、なかなかビルダーさんは大変ですね(笑)。建物の外観にシックな色合いを使っているのも、長期的に使われることを考えてのことですか?
石原
そうですね。
三木
施主さんによっては、「外壁をピンクにしてほしい!」なんてこともありそうですけどね(笑)
石原
そうですね。でも我々もお客さまのおっしゃることがすべてをそのまま受け止めるのではなく、住宅のプロとして提案をしていかなきゃと思うところがあるんです。この家の資産価値を考えると、周りと調和が取れた色合いの外観にしたほうがいいですよとか、この部分にはアクセントとして色を入れたらいかがでしょうとか、たくさんやりとりをしながらひとつずつ決めています。
三木
ちなみにあの煙突は換気のためのものですか? 大屋根にとても似合いますね。
石原
ありがとうございます。この煙突は換気のためのものですが、デザイン上でも必要なものでした。この煙突があることで全体のバランスがよくなるというか、ないとスッキリしすぎる印象になるんです。
三木
石原さんにとって、理想的な住宅の性能とはどのようなものですか?
石原
宮城では大きな震災もありましたし、性能としては耐久性や耐震性も重要になっているわけですけれども、我々の考えとしてはデザイン性も大切かと思っています。つまり、“トータルのバランスの良さ”でしょうね。PPHを考えたのは、ドイツやアメリカなど世界各国が持つパッシブハウスの基準を踏まえつつ、それを仙台に合わせたときにどんな設計ができるのかという挑戦が原点になっています。住む方が健康で快適に過ごすために大切な、「断熱・遮熱・蓄熱」の3つの熱をコントロールすることにも取り組んできましたし、今後はそんな考え方が日本の建築業界において標準的なものになればいいなと思いますね。いずれはその3つの熱を考慮した家を当たり前に作る時代がやってきて、今、家を立てている方のお子さん、お孫さんの代には「どうして家の遮熱をしてなかったの?」なんて言われることのないように、我々が今から提案をしなければいけないのかな、と思います。
三木

北洲さんは2017年の秋から、住宅ブランド「北洲ハウジング」の注文住宅全棟で、PPHの技術を採用した「パッシブハウス」を本格的に展開しています。特に宮城は特徴的だと思うのですが、断熱を考えていない既存住宅も多く、そういう住宅はもったいないしなんとかしないといけない。そうしたことを含めた住宅にまつわる問題点は、今後の課題になりそうでね。そのあたりはどのようにお考えですか?
石原
全棟でパッシブハウスを採用する展開は、北洲としてサステナブル(持続可能)な環境を生むためのひとつの挑戦でもあります。循環型の社会をひとつひとつの住宅から実現していくという、ゼロエミッション的な考えも、今後は必要であると思います。
三木
それはユーザー側からすると、長い年月を考えた家づくりということですよね? 50年くらい? いや70年くらいまで見越していますか?
石原
いえ、90年ですね。北洲の長期優良住宅では、75~90年の耐久性がある家を目指しています。
三木
デザインも、永く変わらないことがポイントになってきますよね? 長期的に安定するデザインを提案しているのですか?
石原
そうですね。一生に一度の家づくりをお手伝いさせてもらっている立場としては、建物本体に関わるところは特に大事なことだとご説明して、提案したいと思っています。PPHの開発を経て、今後の家づくりを考える上でも、こうした建物の耐久性や普遍的なデザインに関する考えは大事にしていきたいですね。