喜怒哀楽を重ねてきたからこそ表現できる「心の開放区」— ゆったり身を委ねたい大人シックな家

子どもも巣立ち、人生の喜怒哀楽を重ねたその先。きっと誰しも「次の生き方」を模索するときがやってくるだろう。新しいスタートを切るための暮らしの場。いいえ、思考を自由に、自分らしく輝いて生きる舞台、感じる瞬間。今回、お邪魔したI様邸には、そうした言葉がフィットする。桜並木と暮らすI様邸。“冬が寒い程、桜は美しく咲く”と聞いたことがあるが、豊かな経験と感動を重ねたI様の生き方と重なり合う、そんな気がした。

床面積 106.17㎡
工法 2×6(ツーバイシックス)工法
所在地 東京都
施工年 2018年

静かに流れる川のほとり。遊歩道には桜の木が折り重なり、辺りを薄紅色に染める。そんな美しいロケーションに佇むI様邸。真っ白な外観に黒い窓枠と三角屋根、リズミカルな凹凸を組合せながらも、縦に伸びる板張りやデッキが和らいだ温もりをプラスしている。

家庭を持ち、子育てを終え、そして介護も経験されてきたI様。同時にご自宅でピアノ教室を主宰する仕事人としての顔もお持ちだ。「新しいスタート、次の生き方のキーワードは“コミュニティ”」-、凛とした表情で次の生き方を見据えていた。常に真っ白な気持ちでチャレンジを重ねてきたI様。今回の家づくりはそんな生き方そのものだ。

気の置けない仲間で集まり、持ち寄りパーティをしよう。そんな時に「うちでやらない?」、そう言える場所が欲しかった。それを叶える「開放区」がこの家だ。

4枚のモダンアートや季節の彩り、心を浄化してくれる溶岩石のポプリ…。ギャラリーを彷彿とさせる玄関も、そんな想いのイントロダクション。集う客人を楽しませてくれる、おもてなしの心をデザインしたものだ。

メインステージへと誘う階段を駆け上がるとそこは、穏やかで静かな、まるで小さな森の中のよう。真っ先に目に飛び込む白いキッチンは、存在感を放つ、欠くことのできないインテリアの主役級。奥行も幅も十分なデザインは、みんなでわいわい調理やサーブするのにも大活躍しそうだ。

背面には、透明ガラスに軽やかに飾られたグリーンやキッチンツールが、カフェのようにおしゃれに並ぶ。そんな心地よい生活の香りもまた、ほっと心を解きほぐしてくれる。

無垢の木を全面に敷き詰めた、ゆとりが広がる勾配天井に魅了される。黒いアクセントウォールとそこから伸びる黒い梁は、まるで大地に根を張った幹から枝が伸びているかのようにも思える。毎日が森林浴、心からリラックスできる癒しの時。目を窓辺に転じると、ひらひらと花びらが宙を舞う。満ち足りた時間、豊かな人生を楽しむ、そんな場所だ。

生地をたっぷり使った、景色を透けて見せるレースのカーテンも、吹き抜けの天井から下がる大きなシャボンのような7つのペンダントライトも、作者のデザイン哲学が息づく名作テーブルも、自由な発想で組合せた表情の違う椅子達も、全てがここには必要であり、溶け込み、重なり合い、異彩を放つ。

「北洲さんが素晴らしいんです」、I様はそんな風におっしゃられるがご自身の軸を持ちつつも、先入観を持たずに「真っ白な気持ちで、家づくりを楽しもう」という視点が、好奇心が、発想の種であり、全てであったことにほかならない。

照明、家具、インテリア…、「好き」が溶け込む「大人シック」な空間。I様が目指すのは余計なものを持たずに、シンプルに暮らすという生き方だ。しかし、こうも続けられる。「私は『持たずに生きよう』と思いましたが、人それぞれでいいのだと思います。『自分の好きなようにやる』、これが一番だと思っています」。好きな物に出会うまで、「コレ!」と思うものが見つかるまで、必要なものだけを丁寧に探し、大切に使う。それがI様流のライフスタイルだ。そうした物達を、友人達との時間を、そして「私」を包み込んでくれるのは、この家でしかない。

I様邸はダブル断熱、蓄熱を採用したパッシブハウス。機械設備に頼りすぎずに、健康で快適に暮らせる住まいを実現した。「実際に住んでみると、暖かさは想像以上」。お招きする友人達にも、心地よい時間を過ごしてもらうことができそうだ。さらに優れた気密性能により、遮音効果も向上し、「屋外に音が漏れにくい」ことにも驚かれている。微かに聴こえているかもしれない美しいピアノの調べは、道行く人の心をきっと和ませているのだろう。